「まあ、こんなご馳走まで作ってくれて。晴日さん、料理がお上手なのね?」

 久しぶりに会った彼のお母さん――聖子さんは、変わらぬ美しさ。紳士的なお父さんに椅子を引かれ、ゆっくりと座る上品な姿に、思わず目を奪われた。


 聖子さんは、これから大きな海外ツアーを控えていながら、忙しい合間をぬい、私に会いにきてくれた。

 それは、あのパーティーでゆっくり話すことのできなかった息子の妻と、時間を作って話をするため。


 そんなことを聞いてしまったら、ただでさえ妻を演じるという重圧に緊張しているところなのに、私はどうにかなりそうだった。


「すみません。実は今日の料理、ほとんど千秋さんが。」

「千秋が?あなた料理なんてできたの。」


 テーブルに並べられた料理。

 それは、家庭料理とは思えない出来栄えだった。


 昼間、私が着いた時にはもうある程度の下準備が整っていて、私はそれを手伝っただけ。席をセッティングして、簡単なサラダを作って、大したことはしていない。

 ほとんど、ひたすらキッチンに向かっていた彼が作ったものだった。


 本来なら、妻らしく自分も作ったかのように見せたいところだけれど、これではそんな嘘もつけない。

 それほど完璧なディナーだった。