「ちょっと飲み過ぎだぞ。」

「えー、お金払ってるのにー。私は飲みたいものを、飲みたいだけ飲むんですっ。」


 あの後。私は、自然と流れてきた涙を拭う気力もなく、一言も口を利かなかった。

 窓の外を眺めながら家に着くまでの間、母の言葉にも反応せず、ボーッと一点を見つめていた。


 部屋に戻り、ベッドの中で現実逃避。気づくと、2時間ほど経っていた。開けっ放しにしていたカーテン。窓から差し込んでいた光も、いつの間にかなくなっていて、外がもう暗くなっていたことに気づく。

 ようやく、重い体を動かす気になった。


 私は誰にも告げず、フラッと家を出た。

 行き先も決めずに歩いた。イヤホンをして音楽を聴きながら、あてもなくただ歩き続ける。


 すると、吸い寄せられるように辿り着いた場所。私は、やっぱりここへ来てしまうようだ。

 ――Bar (ぜろ)

 路地裏にひっそりと構える、隠れ家的な雰囲気のバー。暗がりのムードある、アンティーク調の店内。バーカウンターには、お洒落なキャンドルがちらほらと灯っている。


「同じのください。」

「これで何杯目だよ.....」

「いーから、同じのっ。」


 ここは、私が病院で働き始めた頃から通っている、行きつけのバー。カウンターの中に立つバーテンダーで、ここのマスターの男性とも長い付き合い。

 私は、いつものように慣れた口調で注文をした。