「瀬川さんからも言ってくださいよー!私より胡桃の方がか弱いでしょって。」

「えっ。」

 すると、突然降りかかった火の粉。思わず、低い声が出てしまい、周りのスタッフから笑いが起こった。


「はーい、胡桃ちゃん仕事しようねー。」

 キッチンからの見兼ねたオーナーの声に助けられ、口を尖らせ、ぷいっと顔を背ける胡桃ちゃんは、すんなりと私から離れていった。


「あ、そうだ。瀬川さん、これ。」

「ん?」

 その時、入れ替わるようにして近づいてきた創くん。少し挙動不審になりながら、何かを握っていた手を開いて見せた。

「昨日、鍵渡し損ねた。」

「え、持ってるよ?」

「いや、そうじゃなくて、合鍵。俺が持ってたらちょっと不用心っすよね。だから、2本とも渡しときます。」


 そんな会話を店内で繰り広げ、私たちは迂闊だった。

 彼も気を遣い、小声で話はしたものの、きらりと光る鍵が私たちの間に渡されるのを多くの人が目撃していた。



 この後、これはちょっとした騒動になる。

 周りにいたスタッフだけでなく、その様子を見ていたもう1人の人物が、耳をダンボにして中途半端に話を聞きかじった。

 そのことを、私が知るのはもう少し先のことになる。