わざと聞こえるような大きな声で、後ろから胡桃ちゃんの強い圧を感じる。

 まさかこの年になって、大学生の恋愛に巻き込まれるとは想像もせず、一人で苦笑いを浮かべるしかなかった。


「俺より先に働いてんだから、何をフォローすることがあるんだよ。」

「えー、胡桃も重いお皿運んでたら持って欲しいー。」

「それはサボりたいってことでしょうか。」


 ここまで、開けっ広げにアピールできるのは凄いものだ。むしろ感心してしまいそうになる。

 気づいた上で上手に交わしているのか。それとも全く気づかずにやっていることなのか。彼は彼で、やはり掴めない存在だった。


 準備中の看板を掲げた夕方の店内は、胡桃ちゃんのきゃっきゃとした雰囲気に包まれる。

 みんないつものことだと慣れてしまい、誰もそのことには触れず、またやってるとばかりに顔を見合わせていた。


 でも、こうして聞いていると、創くんも普通のハタチの大学生なのだと実感する。

 私と話す時は少し落ち着いているようにも見えるけれど、素の彼は同世代の女の子とこうもテンポよく会話して、なんだか新鮮な気持ちだった。