逃げ道は、一つも用意されていなかった――。


 なんとなく、話の流れから感じていたこと。これは、母お得意のいつもの流れだと。

 結局、みんな同じ。大事なのはあの病院。娘の気持ちなんて二の次で、あの病院が存続するなら犠牲はいとわない。

 桜を思って流す涙も、私にいろんなことを諦めさせる文句も、昔から何一つ変わってはいない。

「はい、わかりました」と、そう言うしかないような道筋しか、いつも用意されていなかった。


「それでも、正直に話してほしかった。騙すような真似して、二人を結婚させて......。ここまでする必要はなかったでしょ?」

 やっと、口を開くことができた。

 振り絞って荒げた声。最後に残っていたモヤモヤを、全て吐き出すように母にぶつける。


 すると、今度黙り込んだのは母だった。

「何かあるの......?」

 そう聞いても、言いずらそうに口籠り、ちらちらと私の目を見るだけ。

「何?言って?」

 気になって仕方がなかった。


 しばらくして、観念したように話し出す母。

「矢島さんが結婚してしまえば、晴日ちゃんは諦めるしかないだろうって。」

 話すのを渋っていた理由は、これだった。


 血も涙もない言い分には、ほとほと呆れる。開いた口が塞がらないとは、まさにこのこと。私の反応を確かめもせず、従わせるためには手段を選ばない。


 これが、私の家族だ――。