もう、私の力なんて必要ない。神谷さんに頭を下げる必要もない。だって、父には千秋さんが――業界1位のウィステリア製薬がついていたのだから。
何も知らなかった自分が馬鹿みたいに思える。
千秋さんの口車に乗せられて、家族への愛なんてものを信じた。そんな感情、私の中にあるはずもなかったのに――。
私は、夕方になるとマンションへ戻った。
玄関の物音に反応するように、奥から顔を出した千秋さん。ホッと安堵した表情が見えた。
しかし、そんな彼を無視して部屋に入った。
私は、帰ってきたわけではなかった。
「晴日ちゃん?」
「ただ、荷物を取りに来ただけなので。」
「それ、どういうこと?」
「私、出ていきます。」
タンスから服を引っ張り出し、荷造りを始める。
千秋さんを背後に感じながら、ホテルに送ってもらった時、言われた言葉を思い出した。
家で食べよう。
わざわざそんなことを言ったのは、全て秘密がバレることを覚悟した上で、帰ってきて欲しいという合図だった。