足早に、その場から立ち去った。どうしたらいいか分からず、私は無心に歩き続けた。
土地勘がなく、今どこを歩いているかも分からない。ただただ足を動かし、行き着くままに歩き続けていた。
そうして、近くの駅からボーッと電車に乗ると、なぜだか零士さんのバーの前に来てしまった。
今まで、何かあるたびにここへきていた。その癖は、いまだに直っていない。でも、今日はここへ来るべきではなかった。
中に入るわけでもなく、行き場を無くした猫のように、ただ入口の前で立ち尽くす。その時、扉が開く気配を感じ、私はまた行き場を失ってしまった。
零士さんに見つかる前にと逃げてきた私は、マンションへ帰れるはずもなく、駅前のカフェに入った。
糖分欲しさに頼んだ、とびっきり甘いクリーム入りのラテ。1番大きいサイズを頼み、少しだけ後悔した。
小さなスプーンで、クリームをちまちまと掬う。そんな自分の姿が目の前の窓ガラスに反射して、急に虚しさを覚えた。
結局、私は籠の中の鳥。
駒の一つに過ぎなかった。
神谷さんは最後、私に受け止めてくるよう言った。きっともう会う必要はなくなるだろうと、意味深な言葉も付け加えて......
あの時は、何もわかっていなかった。
けれど、行ってみて全てを悟った。

