「静かにこもってたけど、なんかあったか?部屋にいたなんて、全く気づかなかったよ。」
カウンターに並んで座る私たち。グラスに入ったウイスキーを見つめながら、そんな問いかけには微笑むだけで、誤魔化して返した。
「ごめん、プライベートに踏み込みすぎたか。」
「あ、いや、そうじゃなくて......」
彼の様子は、普段と何一つ変わらない。昨日のキスなんてなかったかのように、彼は平然とこちらを見ていた。
そこで気づく。昨日のことを意識していたのは、私だけだったのだと。
「今日、神谷製薬に行ってきたんです。」
一瞬、身構えていた自分が恥ずかしくなる。私は気を取り直して、平常心を装った。
「ん。神谷製薬ってたしか。」
「はい。前に、お見合いをした相手の会社です。」
「またどうして急に。」
目を丸くし、驚いたようにそう言う彼。
私は、全てを話すことにした。矢島さんとバーで会い、聞いた真実。そして今日、神谷製薬へわざわざ赴き、願い出たことについて。
しばらく沈黙が続いた。
話は終わり、これ以上隠していることはないと言わんばかりに出し尽くした。それでも、何も言ってくれない彼に戸惑い、その沈黙が余計に私の不安を煽る。
「ふっ。」
その時、隣で吹き出すような笑い声が聞こえた。
「晴日ちゃんって、そんな無謀なことできたんだ。意外なんだけど。」
彼は笑みを浮かべながらそう言い、その想定外の反応には思わず面食らった。

