「矢島さんと結婚して、瀬川総合病院を継いでほしい。1年前、私にそう言ったのはお父さんでしょ。」


 元々、病院は私が継ぐはずだった。

 体の弱い桜に経営を任せるのは、とてもじゃないけど荷が重い。だから、私の夫となる相手が瀬川の家の婿養子に入り、跡を継いで一緒に支えていく。

 最初にそう告げられたのは、高校生の時だった。桜もそれを受け入れていたし、私もそういう運命なのだと覚悟していた。

 外科医としても優秀で、経歴も申し分ない。若手のホープと言われる矢島さんと付き合い始めた時、そんな私の婿にはピッタリだと喜んでくれた。


 ずっと望めないと思っていた恋愛結婚が、目の前に見えた瞬間だった。

 それなのに.......


「晴日、お前も知っているな。うちの病院経営が、だんだんと傾いてきていることを。」

「はい。だから、私が矢島さんとあの病院を....」

「いや、そんな簡単な話ではない。もう、ただでは立て直せないところまで来ているんだ。」


 人を威圧するあの表情。

 人を萎縮させるあの喋り方。

 思わず敬語になってしまうあの空気感。


 そんな父に、こんな表情があったなんて。私は知らなかった。頭を抱え、少し弱っている表情。思わず、その顔を見た瞬間、口をつぐんでしまった。


「私たち家族に残された道はないんだ。神谷製薬のご子息と結婚する以外には.......」


__________