ずっと、誰かにこう言って欲しかったのかもしれない。自分でも分かっていなかった本当の気持ちを、教えて欲しかったのかもしれない。


「これからは、自分の思うように生きなさい。」


 私は、自分がない人間だと思っていた。人生は決められているんだと変える努力もせず、広い世界に目を向けようともしない。ただ父の言いなりである自分を嫌悪して、爆発した。

 自分を変えようと努力することも、してこなかったのに。


「もしかして、俺、一丁前に諭してた?うわ、オヤジくさ。」

 千秋さんは、自問自答しながら立ち上がり、自分自身に失笑する。

「飲み過ぎだな。部屋、戻るわ。」


 何かを誤魔化すように、私に話す隙を与えないように。慌ただしく消えゆく彼を、私は引き止めることができなかった。

 キスの理由も分からず、残されたビールの空き缶が妙に虚しさを感じさせる。


「なんで......?」

 突然、思い出したように顔が火照りだし、唇に意識が集中する。


 隣には、彼がいた。

 ふわふわと夢の中にいたようなこのひと時は、私の幻想だったのか。何もかもなかったかのように、取り残される。

 あたかもずっと一人だったかのように、辺りはしんと静まりかえっていた。