「お父さんの役にたちたくて、頑張りすぎた。お母さんの負担にならないように、頑張りすぎた。お姉さんの分も自分がって、頑張りすぎた。」

「え?」

「今までに聞かせてくれたこと、俺には全部そう聞こえてた。今までのことは全て、自分のことは二の次で、家族のためになることをしようって頑張った結果なんじゃないかって。」


 その一瞬。

 キスのことも何もかも全部吹っ飛んで、空っぽの頭の中にその言葉だけを置いておきたい。そんな気になった。


「君の愛が、親から受ける愛より少し大きかったってだけ。ただそれだけの話だよ。」


 私の頬に、一筋の涙が伝う。背中越しの彼が、今どんな表情をしているのかは見当もつかない。

 けれど、初めてだった。

 私が今までずっと悩んできたことを、そんな風に表してくれたのは......。そんな見方をしてくれた人は、初めてだった。


「同じくらい愛が返ってこなかったから、心が悲鳴をあげただけ。きっと、人のことばかりじゃなくて、自分の心にも耳を傾けてあげられてたら、もう少し変わってたのかもしれないな。」

 驚くほどに、言葉の一つ一つが心に刺さっていった。