数分経つと、カチカチと鳴っていたキーボードの音が、急に聞こえなくなったのに気づく。

 ふと気になり、顔を上げた瞬間、ソファがギシッと音を立てて沈んだ。


「子供、好きだよ?」

 そして千秋さんはコーヒーを置き、私の顔を覗き込んだ。

「ごめんね、気遣わせちゃって。ちょっとメールの確認してて。でも、もう終わったから。」

「仕事......」

「今はブレイクタイム。」


 彼はふぅーっと息つくように足を投げ出し、ソファに寝転んだ。湯船にでも浸かっているかのように全身を預けて、思わずクスッと笑ってしまいそうになる。


「子供って、エネルギー凄いよなー。結構疲れたわ。」

 でも、すぐにそんな気も失われた。よく見たら、顔を歪めて辛そうな顔をしていて、咄嗟に口を押さえて堪えた。


 帰ってきた時は慌てていて、さらりと流してしまったけれど。記憶の中で千秋さんは、頭が痛くて帰ってきたと、そう言っていたのを思い出す。

 礼央の前では、元気に見せていたけど、実は少し無理していたのではないかと思った。


「今日帰ってきてるって知ってたら、連れてこなかったんですけど。邪魔になっちゃってすみません。」

「ああ、いいのいいの。遊び出したの俺だし、どうせ明日休みだから。後でやっちゃう。」

 逆に気を遣わせてしまった。

 私は口をつぐんで、膝をぎゅっと抱えたまま、さらに小さくなって反省した。