「どうか、幸せになって」



震える声はどこまでも優しい。



「……真守も。真守も、どうか幸せになって。絶対だよ。絶対の絶対だよ」



真守は力強く私を抱きしめた。

温かい。こんなにも温かいのに。

私たちの心はこんなにも近くにあるのにどうして交わってはいけなかったの?

何がいけなかったの?


何も望まなかった。

ずっと耐えて、我慢して、でも叶わなかった。




「さようなら、真佳。大切な人、大好きな人。俺のお星さま、かけがえのない人」

「さよ、なら……っ」


真守は小さく笑って私の頭にぽんと手を置いた。

いつもそうするように、本当にいつもと同じように。


そして背を向け歩き出した。振り向かない。そう約束したからだ。


でも、でも。



「……真守ッ!」



まだ間に合う。

だって私は背を向けていないから。


だからまだその名前を呼んでも許されるでしょう?

だって、私たちは、まだ恋人なのだから。


真守の背中は人混みに消えていく。見失うその前に。手の届かない人になる、その前に。



「もし、もしもまた会えたら────ッ」



言い切る前に言葉がつまり、その場に崩れ落ちる。

真守の姿はもう見えなくて、ただ子供のように声を上げて泣き崩れた。