「真佳、全部忘れよう」


ああ、やっぱり。

いつか言われると思っていた言葉は、面と向かって言われるともっと胸をえぐるかと思っていた。

けれど思っていたよりも、冷静に受け止めれる自分がいた。


「そう、だね」


笑え、笑え。

最後くらい、笑顔で。

そうしなければきっと後悔する。

そうしなければきっと、真守は笑ってくれない。



「ここでお互いに背を向けたとき、俺たちは他人だ。振り向かない、過去も後ろも。真佳はこれからと前を見て進むんだ」

「うん、私たちは他人だよ。真守も全部忘れてね」


「ああ、真佳もな」



真守は私の頬に手を添え、私の涙をそっとぬぐうとこつんと額を合わせた。

真守は微笑みを浮かべる。鼻の上にポタリと温かい雫が落ちた。

真守の涙だった。