「真守」

「真佳」


沈黙を破ったのはお互いに名前を呼ぶ声だった。

思わず顔を見合せて、ぷっと吹き出した。


「真佳から、お先にどうぞ」

「ふふ。うん、あのね。これ、英語の先生から預かったよ。添削したエッセイだって」


そう言って、握りしめていたエッセイを真守に差し出した。

あまりにも強く握りしめていたせいで、クリアファイルに挟んでいたはずなのに、角がぐしゃぐしゃになっている。


「わっ、ごめん……!」


慌ててしわを伸ばそうとしたけれど、真守は小さく首を振ってそれを取り上げた。

ありがとう、そう言ってエッセイをちらりとみて「見たろ?」といたずらに笑う。


「……うん、見た。ごめんなさい」

「別にいいよ。見られて困るものじゃないから」


ぽんと私の頭に手を置いて、お兄ちゃんは笑った。


「それで、真守は……?何か言いかけたよね」


ああ、と真守は少し目を伏せて笑うと、顔を上げて私の目を見つめた。