「帰ろうか」
夜風が冷たくなってきて、お兄ちゃんはそう言った。
差し出された手をとって立ち上がると、名残惜しいような心残りがあるような、そんな気持ちでもう一度夜空を振り返る。
「またいつでも来れるよ」
「ふたりで……?」
「ん、ふたりで」
その返事にほっと息を吐いて、笑顔で頷いた。
駅のホームに着くとお兄ちゃんが電車の時間を調べてくれた。
思い出したように私もカバンの奥底に入れていたスマホを取り出す。
郁ちゃんから何件かメッセージが入っていた。
後で返さなきゃなぁ、なんて思いながらお兄ちゃんを振り返る。
「真、守……?」
顔を強ばらせたお兄ちゃんは、私の呼び掛けには答えずに直ぐに誰かに電話をかけた。
「はい」「病院の近くです」「直ぐに行きます」と丁寧な口調で誰かと話している。
「真佳も? いいえ、真佳は関係ないでしょう。連れていきません」
自分の名前が上がった瞬間、お兄ちゃんの纏う空気が鋭くなった。
怖いくらい張りつめた空気に、思わず息が詰まる。