「あ、ごめっ────」
パッと手を離したけれど、反対にその手をお兄ちゃんが掴んだ。
「真佳、俺の目を見て」
お兄ちゃんの真剣な目にじっと見つめられ、耐えかねて足元に視線を落とす。
その時、じりりりとお兄ちゃんのスマホのアラームが鳴った。
いつもの家を出る時間を知らせるものだった。
眉根を寄せたお兄ちゃんは片手で端末を操作してポッケにしまった。
「真佳、今日は何時まで?」
「小テストが、5教科分……」
「じゃあお昼すぎには終わるね。帰ってきたらちゃんと話そう」
頷かない私に「真佳」と窘めるよう名前を呼ぶ。
小さく頷けば、お兄ちゃんは「よし」と私の頭を叩いて「行ってきます」と家を出た。