その時、お兄ちゃんのパンツのポッケに入れていたスマートフォンがピコンピコンと何度も鳴った。メッセージアプリが受信した音だ。
取り出して確認したお兄ちゃんはひとつため息をついた。
「ハセが早く戻って来いって。浅原さんと凛が険悪なムードらしい」
「わっ、大変だ……!」
二人並んでひと通りの多い参道へ出た。
「そういえば。りんご飴、ありがとう」
ずっと右手に握って忘れられていたりんご飴を顔の前にかかげてお礼を言う。
「どういたしまして。昔から好きだったもんな」
「うん。なんかね、」
そう言いながら夜空にりんご飴をかざす。
「アンタ────」
「アンタレスみたい?」
丁度言おうと思っていた星の名前を先に言われる。
夏に見えるさそり座のいちばん明るい星、一等星のアンタレスは夏の夜空をどの星よりも真っ赤に彩る。
「へへ、そうなの。お兄ちゃんがそう言ってから、私もりんご飴がアンタレスに見えて」
「え?言い始めたのは真佳だよ」
「うそぉ?絶対お兄ちゃんだよ!」