柵のあいだから「芽吹さんもはやく」と急かされる。
早くって言ったって…わたし、別に運動が得意なわけじゃないんだけど。とはいえ、願ったところで門が開くわけでもないので、言われるまま柵に手をかける。
足も上手く使いながらぐっと力を込めて体をもちあげると、わたしでも案外簡単に上ることができた。
「さすが。女子でこれ手助けなしで上がれるの、センスあると思うけど」
「…思ったより高くなかったから」
わたしがそういうと、星原くんは「そっか」と小さく笑った。
迷いのない足取りで校舎に入って行く彼の後ろを歩きながら、夜の澄んだ風を切る。
夕方に同じ学校の人たちから隠れるように歩いていた時とはまた違う、夜の学校に忍び込むという感じたことのない好奇心が全身をめぐっていた。
非常階段を上るたびに、二人分の足音が響く。
もし見つかったらどうなるんだろうなぁという少しの背徳感と、これから見える世界への期待。
それが、いまこの時間を生きている理由のような気がした。



