「芽吹さん」
しばらく歩いて、駅前の賑わいから離れた道に入ったころで ふと、星原くんが歩いていた足を止めた。
街灯のあかりと、日中に比べて落ち着いた空色に囲まれて、星原くんがわたしの名字を紡ぐ。
なんとなく、星原くんは夜が良く似合うと思う。
似合う……なんて言っても 星原くんと学校以外の場所で会うのは初めてなのだけど。
「もう、かえる?」
その質問に、わたしはほぼ反射的に首を横に振った。
帰りたくなかった。
どうせ居心地の悪い家に帰るだけなのだ。許されるなら、星原くんが良いと言うなら、まだ彼と楽しい時間をすごしたいと思っている。
わたしの反応をみた星原くんが ふっ と笑みをこぼす。何の笑いかはよく分からなかった。



