「ねえ、芽吹さん」



星原くんの声に「うん?」と耳を傾ける。

彼の視線はわたし───ではなく、テーブルの上に置いた鞄に向いていた。「それ、」と指を指され、星原くんが何を言いたいのかはなんとなく理解できた。



「…なんか、今日はもういいかなって」

「そっか」



はは、と渇いた笑いが零れる。



今日はなんだかいつもに増して疲れたし気分が悪い。

いじめられることが苦痛に感じているというよりは、山岸さんや滝口くんと同じ空気を吸うことがなんだかすごく嫌になってしまったのだ。



だからもう今日は午後の授業をサボって帰ってしまおうと決めて、教室を出るときに鞄も一緒に持ってきたのだった。



それに、いちごみるくをかけられたから 早いところ制服をクリーニングに出さないといけない。幸い明日は土曜日なので、休みのうちに制服は綺麗になって戻ってきてくれるだろう。


バイト代はこんなところで無駄遣いをしたいわけじゃないのにな…と、ジャージの胸元に刺繍で描かれた自分の名前をみて思う。