「…旧校舎に空き教室があって」

「ああ、あそこ。冬は凍えるほど寒いから、冬になるまえに新しい場所探した方いいよ」

「…行ったことがあるの?」

「1回だけね」



1回だけ、というわりにあの教室をよく知っているような口調だった。

星原くんは、多分わたしが思っているよりもずっと訳ありな人間かもしれないなと、漠然と思った。




まだいじめられることに慣れていなかった、数週間前の話。


それまではお昼休みは自分の席でこじんまりとランチタイムを過ごしていたけれど、山岸さんたちの反感を買ってしまってからは、教室で穏やかにご飯を食べることはできなくなってしまった。


食べようとしていたご飯は全部滝口くんの手に渡るし、飲み物を買ってこいとパシリにされるし、酷い時は今日みたいにパックのジュースをかけられることもあった。


それからは、お昼休みはきまって特別授業がある日以外基本的に使われることのない旧校舎の空き教室ですごすようにしたのだった。


わたしの話に「ふうん」と感情の読み取れない相槌をうった星原くん。テーブルに上半身を倒し、見上げるように目を合わせられた。