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「髪、濡れてる。ジュースかなんかかけられた?」

「……」

「そっか」



何も言わないわたしに、星原くんは納得したように言う。


ジャージ姿のわたしは、図書室じゃなくても浮いていた。髪の毛も濡れているし、水洗いはしたもののべたつきも残っている。


自分でもわかるくらいいちごみるくの香りがするので、星原くんの気分を害していたらどうしようと、珍しくも他人を基準にしてそんなことを考えた。




「…わたし、臭いからあんま近づかない方が」

「なんで?」

「…いちごみるくの甘ったるい匂い、自分でもわかる」




図書室の静かな空間にわたしの声が落ちる。

数少ない他の利用者や図書委員の生徒にこの声が聞こえていたらどうしよう。本の匂いと相まって、自分がひどく匂っているような感覚になった。



「べつに気になんないけど」




───すん、



わたしの髪の毛に鼻を寄せ、星原くんがにおいをかいだ。


突然詰められた距離に心臓が跳ねる。

「おれいちごみるく好きだし」と意外な好みを付け加えた星原くんからは、本でもいちごみるくでもない、柔らかな良い匂いがした。