「──滝口、課題ならその隣にいるゴミにお願いすればぁ?」




耳に届いたのは、わたしの大嫌いな声だった。
聞こえないふりをするには苦しい音量だ。



「優等生だしぃ、課題とか完璧に終わってるはずでしょ」

「あー、その手があったか。芽吹がいたことも忘れてたわ」

「ちょっとぉ。それは最低だよぉ~」




下品な笑いが教室中に響く。


わたしの存在を忘れていたというなら、そのまま忘れたままでいてくれたらよかったのに。心の中で舌打ちをひとつ零して、わたしはしぶしぶ視線を移した。


星原くんと目が合う。感情の読み取れない表情を浮かべていた彼は、自然な所作で目を逸らした。



「芽吹、ノート貸せよ」



机の前にやってきた滝口くんは、それを当たり前かのように命令口調で言った。

「はやくしろ」と急かされる。わたしは何も口答えせず鞄からノートを取り出した。断る気はなかった。


言われた通りにすることで滝口くんがすぐに自分の席に戻ってくれるなら安いものだと、そう思っていたからだ。