つめたい風が水しぶきを連れてくる。
傘を閉じ、屋上に足を踏み入れる。入ってすぐ、暗闇に紛れる黒い傘を見つけ、ぴちゃぴちゃと水を踏みつけながらそこに向かった。
雨だから、いつもみたいにコンクリートに寝そべることもベンチに座ることもできない。
そこに憑りつかれたみたいにぼうっと立ち尽くす姿。傘の隙間からすこしだけ見えた横顔に、心臓がきゅっとつかまれた気持ちになった。
ぴちゃん。
足音と気配に反応したのか、彼が首だけを動かし視線を映した。その視界にわたしが映るのは、実に半年ぶりのことだった。
「───…芽吹さん」
ざあざあ、ぼたぼだ、どくんどくん、ざわざわ、
雨音がうるさい。風音がうるさい。心臓がうるさい。彼の声だけを聴いていたいのに、今日はいつもに増して邪魔な音が多かった。
「星原、くん、」
「…久しぶりだね。元気してた?」



