「時間取らせてごめんね。久しぶりに人と話すの楽しいって思った、ありがとう」





星原くんはそういうと、机のわきにかけていた鞄を肩にかけて立ち上がった。


放課後の、日が暮れ始めた教室。窓から差し込む陽のひかりが、星原くんの綺麗な横顔を照らしている。




「おれ、そろそろ帰るね。芽吹さんも、今日はバイトないんでしょ?たまには早く帰って“他人と一緒に”ごはんたべたら?」

「え」

「じゃあ、気を付けてね」




わざとらしく強調された 他人 という言葉になんだか笑えてきてしまった。



星原くんって、けっこうひねくれた人なのかもしれない。

わたしとは何もかも違うと思っていた彼の思考が黒に塗れていると知ったら、クラスメイト達はいったいどんな顔をするのだろう。




「…、っ星原くん」




胸の奥からあふれ始めたこの気持ちはいったいなんなのか。

空っぽな毎日に差し込んだ、正体不明のほんのすこしの木漏れ日に、わたしは無性に期待していたのかもしれない。





「……また、あした」




ただこの瞬間は、わたしに向けられた星原くんの笑顔がにせものではないと、信じたかった。