ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 婚約者がいなくなってしまったことで、面倒事が増えた。そこで君に新たな婚約者になってもらいたいんだ。ついでに一緒に暮らそう。
 夏怜がお金のことで苦労していることもわかっていたので、そこに付け込むようなことも言った。

 ……後からそのような会話をしたことを協力してくれた秘書に報告すると、めちゃくちゃすぎると呆れた顔をされた。確かに今思えば、よく夏怜は受け入れてくれたものだと思う。これでも無我夢中だったのだ。

 そのようにして始まった同居生活は、純粋に楽しかった。

 結局、晴仁が夏怜のことを一人の女性として好きになってしまうのに、そう時間はかからなかった。

 学生時代に味わった経験のあるような甘酸っぱい感情を、三十歳を過ぎてまた味わうことになるなんて思いもしなかった。
 だがそれを上手く口にできなかったのは、夏怜にとって一回りも年上の自分をそういう対象に見てもらえるとは思えなかったからだった。

 それに比べ、夏怜と同じ大学に通う長谷という青年は、彼女と並ぶと実にお似合いに見えた。長谷が夏怜のことを憎からず思っていることは初対面の晴仁の目にも明らかだったので、わざわざ夏怜と親密な様子を見せつけるような大人げない真似もした。

 大人げない自覚はあったため、その長谷に告白されたという話を聞いたときはどうにか抑えたのだ。抑えたが、それが良くなかったのかもしれない。

 婚約者になって欲しいと言ったのに、他の男と付き合いたいならそうすればいいなど、完全に矛盾している。もう婚約者としての役割は辞めてもいいと言っているようなものだ。夏怜の反応も無理はない。


 ──これまでのことをぼんやりと思い出していた晴仁は、強い後悔に苛まれて大きくため息をつく。