ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 偶然にも父から二週間ほど強制的に休暇を取らされている。晴仁はその休暇を、直島夏怜という人物について調べることに費やした。

 晴仁には人物調査のような探偵の真似事が得意な秘書がおり、業務に関係のないことだからと迷いつつも、少し高めの報酬を渡して協力してもらった。するとどのような伝手を使ったのか、名前と所属する大学しか情報がないにも関わらず、すぐにいくつもの情報をまとめた調査報告書を渡された。

 晴仁は晴仁で、大学の前や彼女の働くカフェの近くからこっそり彼女を観察したりしていた。住んでいるアパートを特定したときには、もうやっていることがほぼストーカーではないかと自分の執着心に慄いたが、後戻りするつもりはなかった。


 秘書から、それで結局どうするつもりなのかと問われた時、ようやく晴仁は彼女のことを勝手にこれだけ調べておきながら、結局どう関わればいいのか考えていないことに気が付いた。


『新しい恋を始めようとでも考えているのでしたら、さっさと口説いてきたらどうですか?』


 秘書は、僕が澪との婚約解消した頃から調子が悪くなっていることに気づいているらしかった。
 晴仁としては、そもそも澪のことを恋愛対象として見れているかと言われれば微妙で、その件は「失恋した」という解釈ではなかった。だが周りはそうは思っていない。だから、このタイミングで気にしだした女性のことをそういう相手だと彼が思ったのも無理はない。

 あくまで彼女は天使のような存在で、しかも一回りほど年下だ。そういう相手として見ているつもりはなかった。

 だが、それは良い考えだと思った。

 ちょうど婚約者がいなくなり、その代わりをあてがおうとする人たちに辟易している。そのことが、彼女に近くにいてもらうための口実にはならないだろうか。