ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 その時も支店長と話をしている最中、ふらりと店に近づいてショウウィンドウを眺めている女性がいた。
 何となくその人の顔を見て驚いた。よく見かけるカフェ店員の彼女だ、とすぐに気が付いた。

 見かける時はいつも無表情でクールな雰囲気の彼女が、その時は他の人と同様、少女のように目を輝かせていた。

 その姿に、晴仁は支店長から「どうかいたしましたか?」と訝しげに声を掛けられるまで、じっと見とれてしまった。

 彼女をモデルにしたアクセサリーを作りたいと思ったのはその時だった。晴仁はそれまでもデザイナーに混ざってアクセサリーのデザインを手掛けることが度々あった。

 クールで大人びているように見えて、高級なジュエリーに憧れて少女のように目を輝かせる一面もある。そんな魅力を表現してみたい。
 彼女のことを頭に思い浮かべると、自分でも不思議なくらいにイメージが湧いてきた。

 そうして制作された、夏怜をイメージしたアクセサリーは、想像以上に評判が良かった。それをきっかけに、晴仁は彼女のことを心の中で天使と呼ぶようになった。世間一般で「天使」というあだ名が付けられるような女の子とは全然違うタイプだったが、晴仁にとっては間違いなく天使だった。

 一度声を掛けてみようかと本気で悩んだこともあった。だが自分の知らないところで勝手にアクセサリーのイメージにまでされているとなるとさすがに気持ち悪いだろう、と思いとどまった。これまで通り、時々すれ違ったりして、その時は何となく良いことがありそうな気分になれるラッキーパーソン的な存在のままにしておこうとした。


 しかしそんな日々の中、彼女の存在すら頭から消えてしまうような出来事があった。