ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



「むしろ、普通に夏怜に惚れてんじゃねえの?って思ったぞ俺は」


 以前あの男に会ったとき、彼は長谷が夏怜のことを好きなのだと気づいて、笑顔で牽制してきた。

 夏怜は、あくまで婚約者役であり手を出してくるようなことはないと言っていたが、果たしてそれは本当だろうか。


「ありえませんよ」


 橋岡がはっきりとした口調で答えた。


「あの方は必ず澪様を選ぶ。例え直島様に惹かれていらっしゃったとしても、それはほんの一時の感情です。すぐに冷める」

「別に俺はどうでもいい……っつーかそれならさっさと夏怜から離れろって思うけどよ。あんたはさっきから何なんだ?本当にそう思ってるならわざわざ夏怜に『別れろ』って言わなくてもそのうちお嬢様とより戻すんじゃねーの?」

「お嬢様はあれでいて頑固な方でございます。駆け落ちなどと大胆なことをして、家に戻ろうとはされないはずです。ですが晴仁様が迎えに行けばきっとお戻りになる。そしてそれは、早い方が良いのですよ」

「だから一刻も早く夏怜から引き離そうってか?本当かよ。単にあいつがお嬢様じゃなくて夏怜を選びそうだから警戒してんだろ」


 橋岡は相変わらず表情を変えないまま、一つため息をついた。


「何度も言いますが、直島様のためでもあるのです。“ICHIGAYA”などという大企業の副社長でございますよ?あなた方とは住む世界が違うのです。早くに別れておかないと、直島様は様々な苦労を強いられることになるでしょう。その上で晴仁様からの愛もないとなれば……気の毒だとは思いませんか?」

「っ……」

「直島様にとっても、自分と近い立場の人をパートナーに選んだ方がずっと幸せでしょう。例えば長谷様、あなたとか」