「ですから、彼が望む限りは今のままいるつもりです」
「……言ったはずです。あなたのためでもある、と。あなたが晴仁様に本気になり、傷つくのは私とて望んでおりません。澪様と晴仁様の婚約が解消されたことであなたを巻き込む結果となったのですから、こちらとて無視するわけにはいきません」
「そうですか。では心配不要です」
私はそう言って立ち上がった。長谷に目を向けて「じゃあまた大学で」と言い、背を向ける。
「そうそう、今夜、お二人は久しぶりにお会いになるようですよ」
橋岡さんが後ろから言う。私はその声を無視してそのまままっすぐ歩いた。
◆◇◆
夏怜が行ってしまったせいで、長谷竜二は見ず知らずの謎の男と二人残されるという状況になってしまった。
絶賛片思い中の相手、直島夏怜と遊びに来てたところ、彼女が何やら怪しい男に声を掛けられていたため慌てて助けに入ったのだが、何やら妙な話になった。
夏怜が何故か有名な会社の副社長の婚約者役にされ、現在同居しているという話は前から聞いており、その男とも実際に会った。そして話されているのがどうやらその男絡みのことらしいということまでは、長谷もとりあえず理解した。
あとわかったのは、この橋岡という金持ちの家の使用人らしい男は、副社長と夏怜が本当に婚約していると信じていて、別れさせようとしていること。
長谷としても夏怜にはあのいけ好かない副社長と妙な関係でいることを止めてもらいたいとは思っている。だが橋岡という男の言い分はどうも勝手だと思った。
「……あの副社長が夏怜に本気じゃない、ってのは言い切れないと思うけどな」
長谷は、夏怜が行った方を見たまま動かない橋岡に言う。



