ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。




 それも昨日のハルさんハの様子を見て、何となく感じていた。


「澪様が自分の元からいなくなって空いてしまった心の穴を埋めるべく、その代わりを直島様に求めたのですよ」


 うるさい。聞きたくない。


「あなたのような一般人の若い女性を選んだのも、望んでいるのは傷が癒えるまでのほんの一時的な関係だからでございましょう」


 やめて。


「そしてきっと、澪様も同じ思いのはずでございます。あの男の手を取ったのは、ほんの出来心……というよりは、自分を縛り付けていた木坂家への反抗心から。本当に愛していらっしゃるのはあの男ではなく、晴仁様のことでございます。ですから、おのずとお二人はまたよりを戻されるでしょう」

「もういいです」


 私は橋岡さんから目を逸らして、呟くように告げた。橋岡さんはハルさんと澪さんが関係を戻すことを望んでいる。そして、当人たちもきっとそのはずだと言うのだ。

 そんなこと……


「そんなこと、わからないでしょ」


 この人は、ハルさんと澪さんの気持ちを決めつけている。

 ハルさんはもしかしたら澪さんに未練があるのかもしれない、というのは確かに私も思った。だけど本人からそう聞いたわけではない。
 それに澪さんは?使用人と駆け落ちするなど、相当の覚悟があったはずだ。好きな人と婚約をしているのに、家に反抗したいという気持ちだけで好きでもない人と駆け落ちしようなどと思うだろうか。


「ハルさんが本気で私と結婚しようと考えているだなんて思っていません。ハルさんとの関係は、私にとってもメリットがあるので続けているだけです」


 彼の婚約者役である限り、あのマンションに住ませてもらえるし、生活費だって払ってもらえる。所詮、楽なバイトぐらいの感覚だ。割り切っている。