ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 抵抗したとして力では敵わないので、諦めて大人しくしておくことにした。

 ハルさんは、まるでそうしていないと私が逃げだすとでも思っているかのように強く抱擁し続ける。その状態のまま、艶っぽい声で私の耳元に囁いた。


「化粧、崩さなければ良いんだね」


 答える間はなかった。
 熱い吐息がかかったかと思うと、湿った唇が耳たぶに触れた。

 唇は一度耳たぶから離れ、また触れる。また離れて、次は首筋へと移った。


「ひゃっ」


 自分のものとは思えない、女の子らしい声が口から漏れ出る。

 ハルさんはくすりと笑い、またあの色気のある声で言った。


「跡は付かないようにしてるから安心して」

「そういう問題じゃ……。っ、も、もうおしまい……!」


 私は自分の持てる力の限りを尽くして、ぐいぐいと彼を押し返す。もちろん私程度の力ではびくともしないが、ハルさんはまた少し笑って、抱きしめていた腕の力を緩めた。

 物足りないなあ、と言っているが、それは本気なのか、それとも私の反応を楽しんでいるだけなのかはわからない。


「……いくら過疎化した田舎で、人通りの少ない道にいるとはいえ、誰かに見られる可能性だってあるんですよ」

「はは、そうだね。ごめん。でもあまりにも可愛い夏怜ちゃんも悪いと思う」

「理不尽」


 私は顔が熱くなっているのを誤魔化すように「ほら、早く行きましょう」とわざと呆れ気味に言う。

 ハルさんはうなずいて、さらっと自然に私の手を握った。


 ──またしばらく歩いて到着した神社は、予想通り参拝客は私たち以外に誰もいなかった。

 初詣というわけでもないので、おみくじを引いたり絵馬を書いたりということも特にせず、お参りだけを済ませる。