ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



「本当によく似合ってるなと思いまして」

「そう言ってもらえると嬉しいな。惚れ直した?……なんて」

「はい」


 冗談めかした口調だったが、先ほどまですっかり見とれていた私は、ぼうっとしたままうなずいた。
 ハルさんがピタリと立ち止まった。額を押さえ「まったく……」と呟いて息をつく。


「ずるいよね」

「え?」

「キスしていい?」

「……はい⁉」

「さっきからいちいち言動が可愛いんだよ君」


 ハルさんは私の肩をぽんとつかんだ。向かい合わされた私は彼を見上げる。

 彼は、からかっているという感じではなく、少し拗ねているような表情だった。


「最初に着物姿の夏怜ちゃん見たときから、抱きしめたくてたまらなくなるぐらい可愛いなって思ってたのに、今そんな君を独占してる状態なんだよ?僕はいったい前世でどれだけ善行を積んだんだろうね」

「いや着物姿の私にそこまでの価値は……」

「価値があるかどうかは僕次第だし。そもそも夏怜ちゃんは自分の魅力に気づいてなさすぎだし。我慢するの割と辛いんだけど」


 ゆっくり近づけられる彼の綺麗な顔。
 吐息がかかるような距離になり、思わず手で防いだ。


「け、化粧がだいぶ濃いので、キスなんかしたら崩れるかも」

「……だめ?」

「後で家族に色々察されたら気まずいですよ」


 だが意志に反して、触れられることを期待するように鼓動が高まっていく。

 私は少しうつむいてから、消え入りそうな声で言った。


「キスはあれですけど……抱きしめるぐらいなら……」


 言い終わるよりも前に、彼は私の腕を引いてギュッと強く抱きしめた。