ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



「あの子は世渡り上手なのよね。でも夏怜、私思うのよ。もしあなたが冬弥みたいに陸上選手で、怪我をしたとしたら……。あなたなら、また元のように戻れる保証もないとしても、辛いリハビリを必死にするんじゃない?冬弥は気持ちいいぐらい未練なく辞めてしまったけど」

「さあ。私はスポーツの経験がないから何とも」

「わかるわよ。夏怜は真面目で不器用だから。始めたことを放り出すのが好きじゃないでしょ?だから向こうで生活費が苦しくなっても、最初の宣言通り家族に頼らず必死にバイトしてるんでしょ」

「まあ」

「で、市ヶ谷さんと同居してるっていうのも、家賃払わなくて良くなるから……って理由で始めたんじゃないのどうせ」


 お見通しである。

 私がうなずくと、母さんは大きく息を吐いた。


「市ヶ谷さんは良い人みたいだし、私は反対しないけど……。そんな大事なことはちゃんと連絡しなさいよ」

「……ごめんなさい」

「はあ。……話しが逸れたわね。まあとにかく、夏怜みたいな不器用な性格だって悪いことじゃないわ。だけど、器用な冬弥にはそれがわからないのよ。だから冬弥には夏怜のことが、子供っぽく、危なっかしく見えるの」


 母さんはふっと微笑んで私の頭を撫でる。

 そして「まあ今頃落ち込んでるでしょうね。あれ以上市ヶ谷さんに失礼なこと言ってないといいけど」と心配するように頬に手を当てた。


「まあ、ハルさんはあれぐらいで怒ったりしないと思う」

「そう?それにしても市ヶ谷さん、めちゃくちゃイケメンよね」

「うん」

「夏怜が彼氏連れてくるのなんて初めてね」

「だってハルさんが初めての彼氏……だし……」

「初彼であのレベルって……もう他の人じゃ満足できなくなっちゃうんじゃない?」