ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。

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 部屋から見える景色をぼんやりと見ていると、部屋の戸がノックされ、母さんの声がした。


「夏怜、入るわよ」

「うん」


 部屋に入ってきた母さんは、気遣うような笑みを浮かべていた。

 私はまた外に目を向けて言う。


「店の中の雰囲気、けっこう変わってたね」

「そうね。最近変えたのよ」

「前の昔ながらの感じも好きだけど、今は明るい感じで若い人にも人気ありそうな感じで良いね。……あれ、兄さんの案でしょ」


 父さんはあまり変化を好まない。だから兄さんが変えたのだろうというのはすぐにわかった。

 それに多分、それだけじゃない。


「商店街のイベント?あれも兄さんが色々口出してるんでしょ」

「ええそうよ。寂れたこの商店街を盛り上げるんだって、前から張り切ってるの」

「さすが。私には絶対できない」


 立ち寄った中華料理店を初め、至る所に貼られていたポスター。来月は大々的にフリーマーケットのようなものを開催するらしい。

 近くにある中学校の音楽系の部活の発表会も兼ねるというので、なかなか盛り上がりそうだ。


 この店だけでなく、この商店街を活性化させるためにも、兄さんはなくてはならない存在になっているのだ。もし彼が怪我をせずプロの陸上選手になり、店を継ぐのが私だったら、きっと店を今の状態で維持するのにいっぱいいっぱいだっただろう。

 兄さんは、器用で大抵のことはできる。その上誰からも愛される性格だ。それをうらやましく思ったのは、一度や二度ではない。


「私も兄さんみたいに器用な性格だったら、もっと生きやすかっただろうな」

「そうかもしれないわね」


 母さんが、私のベッドに腰かけながら言う。