ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 だが勝手に話すべきではないだろう。晴仁はそう判断し、うなずいてから言った。


「知ってますよ」

「何でなんだ?」

「冬弥さんも選手生命が断たれるまでは、彼女がこの店を継ぐものだと考えていたんですか?」

「は?」


 質問の答えになっていない晴仁の言葉を、冬弥はしばらく考えてから肯定する。


「まあ何となくな。だがあいつは別にこの店に興味があるわけじゃなさそうだった。それがどうした?」

「いえ。……自分の気持ちを伝えない夏怜ちゃんも悪いし、一度彼女とゆっくり話してみては?」

「はあ?何であんたにそんなこと言われなきゃなんねえんだよ」


 冬弥は声を荒げたが、すぐに何かを思ったように口を閉ざした。それから着付けを再開し、ぼそりと言った。


「まあ、夏怜についてオレの知らないことをあんたから聞くのも癪だし、そうするよ」

「それが良いです」


 晴仁は微笑み、それから目の前の鏡を見た。


「……あ、だいぶ様になってきましたね。着物を着るのってかなり難しいイメージだったけど、あっという間だ」

「まあ慣れたらそう難しくないんでね」

「なら僕も慣れたら冬弥さんのように自分で着られるようになりますかね」

「着方を解説した動画なんかもあるし、練習すれば。……というか、さっきから気になってたんだが」


 冬弥は晴仁に買わせる予定の羽織いくつか用意しながら言う。


「さん付けと敬語を止めてもらえないか?オレの方が年下だし」

「はは、それは夏怜ちゃんとの関係を認めてくれたってことかな、お義兄さん」

「誰がお義兄さんだ誰が!」

「羽織はどんな色を合わせるのがお義兄さんのおすすめ?」

「だからお義兄さんじゃねえその着物の色より少し暗めの茶色がおすすめだ!」