ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。




「着物、前から一着欲しいと思ってたんですが、選び方も着方もわからない。よろしければ、こちらの店の商品を見せてもらえませんか?」

「あ?」

「まさか、せっかくの客を蔑ろにするようなことはしませんよね、次期店主さん?」


 晴仁の挑戦的な言葉に、彼は頭をかきながら大きくため息をついた。


「……ちっ、仕方ねえな、本当に買う気があるならついてこい」

「色々見せてください。……で、客との雑談ぐらいなら付き合ってもらえますね?」

「それが狙いかよ。ったく」


 冬弥は顔をしかめながらも、商売人モードに入ったらしく、それからいくらか丁寧に晴仁を店に案内した。

 外観は昔ながらの建物といった様相だったが、店内は割と新しく綺麗な感じで、スペースもなかなか広い。あるのは柄を見せるため大きく広げられた着物に、下駄やバッグといった小物の数々。また、目立つところに女性物の簪がいくつも並べられており、それらはまるで生け花のような華やかな存在感がある。


「柄や色の種類が豊富な女物に比べると、男物はずいぶん地味な印象だろうと思う」


 全ての感情を殺しているかのような調子で、冬弥は淡々と説明する。


「色は基本的に紺色系、グレー系、茶色系、黒系。柄があるものもあるが、細かく縞模様が入っているだけだとか、遠くから見れば無地に見えるようなものが多いな」

「へえ、確かに男物の着物で派手なのって見ないかも」

「ちなみに着る場面は?」

「日常着に使えるやつを」

「いくつか持ってくる」


 こういう落ち着いた話し方をしていると、さらに夏怜に似ている。おそらく晴仁以外のお客さんに対してはもっとにこやかにしゃべっているのだろうが。