ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。




 試すような視線。
 怯むつもりはない。晴仁は一度軽く目を伏せてから笑顔を浮かべた。


「そうかもしれません。でも、僕が真剣な気持ちであるときちんと伝え続けているつもりです」

「娘がしっかり考えた上で、それでもやはり軽い付き合いを望んだとしたら?」

「もちろん夏怜さんの意思も尊重していこうとは思っています。でも彼女以外を人生の伴侶とすることを、僕は考えられません」


 落ち着いて話しているつもりだが、じんわりと手汗をかいてきた。
 元婚約者の澪の父親と話すときでも、こんなに緊張したことはない。


「なるほど」


 しばらく探るような目をしていた彼が、にわかに表情を和らげた。


「知っているかもしれないが、娘は人付き合いが得意な方ではない」

「ええ」

「故に、こう言ってみたが、夏怜も一度できた恋人をそう簡単に離したりはしないだろう。どうか娘をよろしく頼む」


 夏怜の父親は、深く頭を下げた。

 一瞬驚いたが、晴仁もすぐに応える。


「夏怜さんのことは大切にします」

「信頼している。……あとはそこの妹離れできない馬鹿息子も適当に説得してやってくれ」


 言われて、晴仁は冬弥に目をやった。彼は不機嫌そうにこちらをにらんでいる。

 直島家では共通認識のようだが、彼は本当に妹が好きらしい。彼女の家族のうち、一番敵視してくるのが兄だとは思っていなかった。


「ざけんなよ親父。オレは話すことなんてねえ。ついでにシスコンでもねえ」

「冬弥さん」

「話さねえっつってんだろ」

「いや、そうではなく」


 取り付く島もない彼の顔を、少しのぞきこむようにして見る。
 こう見ると顔立ちはなかなか夏怜に似ている。つっけんどんな態度をとられても不思議と少しも腹が立たないのはそのためだろうか。