「オレにとっちゃ何歳になろうが夏怜は子どもだ。……もとから都会の大学行って一人暮らしってのも反対だったのによ」
ぼそりと出たその言葉は、兄さんの本音だったのだろう。
何だそれ……
「……兄さんに私の気持ちなんてわからない」
「は?」
「私がわざわざ遠くの青藤大学を選んだ理由、知らないくせに」
私はダンっと机を叩き、立ち上がった。
「夏怜ちゃん?」
「疲れたのでちょっと自分の部屋で休んでます」
心配そうに眉を寄せるハルさんにそう言って、私は廊下に出た。
◆◇◆
「市ヶ谷さん、本当にごめんなさいね」
夏怜の母親が、何度目かわからない謝罪の言葉を口にした。
「あの子が感情的になるのなんて珍しいわね。喜怒哀楽をあまり表に出さない子だから」
彼女は家族の前でもあの調子なんだな。
晴仁は「気にしないでください」ともう一度言ってから、夏怜の様子を見てこようかと尋ねる。
夏怜の母はそれを断り、自分が見に行くと言って立ち上がった。
「冬弥。いい歳していつまでもいじけてないで、市ヶ谷さんにお茶のおかわりでもお出ししなさいよ」
「ふん」
夏怜の兄・冬弥は苛立った表情のまま鼻を鳴らし、こちらを見ようとしない。
母親がいなくなった後、部屋は奇妙な沈黙に包まれる。
「……市ヶ谷さん」
沈黙を破ったのは、これまで一番しゃべっていなかった父親だった。
「夏怜とは今後どうなるつもりでいる?」
少しドキリとしつつ、晴仁はすっと姿勢を正す。
「将来を見据えて真剣にお付き合いさせて頂いているつもりです」
「だが夏怜はまだ若い。あなたのように真剣な気持ちではないかもしれない。あの年頃の娘は年上の男に惹かれると聞く」



