ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 母さんはハルさんから受け取った名刺を見て、「え⁉」と声を上げた。


「父さん見て!市ヶ谷さん、あの“ICHIGAYA”の副社長なんですって‼ジュエリーのブランドよ!」

「……」

「は?おふくろ、それってまさかあの高い指輪とかの……?」


 小さな名刺をのぞきこむ三人が、それぞれの反応を見せる。母さんは興奮気味で、父さんは無言ながらも驚き、兄さんはそれはもう全力で驚いている。

 ハルさんは穏やかに微笑んだまま、「ご存じでしたか?」と小首を傾げた。

 ……というか薄々感じていたが、ハルさん絶対に緊張なんてしてない。


「へええ、そう。“ICHIGAYA”ねえ。父さん覚えてる?私たちの婚約指輪このブランドだったわよ。へえ、本当。あらまあ」


 何度も感動したように名刺を見てはうなずいていた母さんが、トントンと机を叩き私に顔を向けた。


「夏怜あんた、全然連絡寄こさないと思ったら、いったいいつこんなすごい人捕まえてたのよ」

「まあ色々あって」

「都会に行けばこんな出会いもあるのねえ。どこで知り合ったの」

「コンビニ……?」

「あら、都会のコンビニはそんな出会いの場なの?」

「そういうわけじゃ」


 とりあえず「都会だから」で片付けようとしてるな母さん。


「雨に降られて困っていたら、夏怜さんが傘を渡してくれたのが出会いです。とても助かったので、その後偶然会ったとき運命だと思って声をかけてみたんですよ」


 答えに困っていた私を見かねたハルさんが、若干事実を捏造して話した。正確には、しっかり私の個人情報を調べあげた上でアパートまで訪ねて来たのだが。

 母さんはハルさんの話に、「あらそうなの……」と嬉しそうに目を細める。