どうせ二十分後ぐらいには会ってる予定だったのだから、それが少し早まっただけ。それでも……タイミングというか心の準備というものがある。
「お、おかえり。つか何でここに?いやその前に……」
兄さんはきょとんとした表情のままハルさんを見る。
「こっちの人は誰だ?……まさか彼……いや、夏怜に限ってまさか……」
ぶつぶつと呟きながら考えだす兄さん。
女将さんは、兄さんの反応でようやく私が直島夏怜だときづ気づいたらしく、一際高い声を上げた。
「あれぇ!本当だ夏怜ちゃんだったんだね!垢抜けた上にずいぶんとイケメンな彼氏を連れてるから気づかなかったよ」
「か、かれし……。はっはっは嫌だな女将さん!こいつに限って彼氏なんてできるはずないっすよ!」
女将さんの言葉を何故か全力で否定する兄さん。実の妹に対してだいぶ失礼だな。
「そうかい?わたしはお似合いだと思うけどねぇ?」と首を傾げる女将さんに、兄さんは「いやいや」と首を横に振り続ける。
その様子を見ていたハルさんは、ゆっくり椅子から立ち上がった。
「はじめまして。夏怜ちゃんのお兄さんですね」
大人の余裕を感じさせる、柔らかな笑顔を浮かべて言う。
その笑顔は、向けられた女性百人中九十八人は恋に落ちてしまうのではないかと思わせるような魅力的なものだった。その証拠に、女将さんは目を丸くしたかと思うと「あら」と頬を押え、恍惚とした表情を浮かべた。
だが反対に、兄さんは警戒心を強めたように唇を引き締める。
「そうですけど……どちら様で?」
「市ヶ谷晴仁と申します。少し前から、夏怜ちゃんとは真剣にお付き合いさせて頂いています」
しばらくの沈黙。
その後すぐに、この小さな中華料理店に兄さんの絶叫が響き渡った。



