ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。



 そうか。ハルさんでも恋人の家族に会うというのは緊張するのか。
 新たな発見をしたようで少し嬉しい。


「今大人のくせに緊張するのかって思ったでしょ」

「大人のくせにというか……ハルさんでも、とは」

「そりゃ緊張するよ。何の挨拶もなしに大学生の娘さんと同居してたんだから。誘拐犯扱いされないかな」

「そんなに心配しなくても……。私も一応二十歳ですし、意志を尊重してくれるとは思います。……というか、本当は同居し始めたときに私から伝えておくべきだったんですよね。すみません」


 そんな話をするうちに、目的の中華料理屋の前まで来た。

 ハゲかけた看板に、日焼けした写真付きのメニュー。いかにも町中華といった感じの風貌は、私の幼い頃から変わっていない。美味しそうな匂いに食欲がそそられる。

 扉を開けば女将さんの「いらっしゃいませ!」という元気の良い声が響く。少し劣化してきている椅子に座り、私とハルさんはそれぞれ天津飯を一つずつ注文した。

 この中華料理屋には昔から何度も通っているためびくびくしていたが、女将さんはどうやら私に気づいていないらしい。それがわかって、少し安心しながら食べなれた天津飯を口に運んだ。


「美味しかった」


 先に完食したハルさんが、水を飲みながら言う。


「そうでしょ?この店は何を頼んでも美味しいんです。あと担々麵もおすすめです。私は辛いのあまり得意じゃないんですけど、この店のは辛さ控えめでそのぶんコクが強くて……」


 幼い頃からの懐かしの味を褒められたのが嬉しくて、私はいくつもおすすめを紹介する。

 五つ目のおすすめ餃子の話を始めたとき、入り口の扉が勢いよく開かれ、がらんがらんと大きな音が鳴った。