ビニール傘を差し出したら、結婚を申し込まれました。

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 街が浮つく12月24日、クリスマスイブ。

 私とハルさんは、居酒屋とコンビニぐらいしかない寂しい駅に降り立った。申し訳なさそうにたたずんだ、私の身長ほどしかないごてごてとした飾りの付いたクリスマスツリーが、田舎の古ぼけた駅といった雰囲気をいっそう際立たせている。

 駅前がこれだけ寂しいのは裏口だからであり、反対側の駅前には、ビジネスホテルやショッピングセンター、郵便局などがある。

 私の家がある商店街は残念ながら駅の栄えていない側の方にあり、徒歩20分ほどだ。


「この町で夏怜ちゃんが生まれ育ったんだね」


 ハルさんは感慨深そうに目を細める。


「軽く地図も見たけど、素朴な感じがする所だね」

「要するに何も無いんですよね」


 生活には困らないが、遊びに行くようなところはない。バスに乗れば、古びたボウリング場と、一日の上映回数が少ない映画館があったはずだが、今も営業しているのかはわからない。


「じゃあ夏怜ちゃんのご自宅のある商店街まで案内よろしく」

「……もう少し後でもいいですよ?ショッピングセンターでお昼ご飯食べたりとかしていきません?」

「あれ?お昼は商店街にある中華料理屋さんに行くって言ってなかったっけ」


 言った。だがその中華料理屋というのは私の実家こと直島呉服店の目と鼻の先なのだ。そこまで行ってしまうと本格的に後戻りできないではないか。いやまあ、既に後戻りできないのだが。

 私ははあっと長く息を吐き、向きを変えた。


「……そうでしたね。天津飯食べるって言いましたね」

「うん。僕を家に連れていくっていうのに緊張してるのはわかるけど、ここまで来たんだから夏怜ちゃんもそろそろ腹をくくって帰ろう」


 憂鬱な気持ちはすっかりお見通しらしい。