しかしいくら経っても追手は来なかった。

途中までは鋭い足音が聞こえていたのに。

それならそれで好都合。

もしかしたら彼を治療できるかもしれない。

一応大木の影に彼を寝かす。

弾は1発。

ひどい出血。

まずは止血?

それとも弾を抜くの?

治療しようとしても自分はそんなことしたことない。

せいぜい骨折の応急処置ぐらいしかできない。

この場合何をしたらいいのだろう。

止血をするにしてもどうすればいい?

弾を抜くにしてもピンセットなんてものはない。

どうすればいい?

どうしたらいい?

今僕は何をすべきだ?

そんな疑問ばかりがぐるぐると回る。

ぱちんっと自身の両頬を叩く。

こんなに動揺するのは僕らしくない、

いつでも冷静なのが僕の取り柄だ。

何かできることはないだろうか。

冷静に、ゆっくり考えろ。

…その前に待て、彼は脈があるのか?

そうだ、そもそもそれを確認しなければ元も子もないじゃないか。

僕は彼の首に触れる。

彼の動脈がどくん、と跳ねることはなかった。

焦っただけ意味がなかったのだ。

いや、まだ出来ることはある。

彼を綺麗に埋葬するくらいは出来る。

よいしょ、と声を出して彼を担ぐ。

しかしそれは無理だった。

いや、無理となってしまったのだ。

「…え…?」

ぽたぽたと垂れる赤い血液。

それは背負っている彼ではなく、僕だった。

腹から焼けるような激痛がはしる。