気がついたら走り出していた。

誰かの叫び声と、銃声。

そんなの助けに行くしかない、

そう思った。


『貴女に助けることなんてできるの?』


頭に響いたその声は酷く、もどかしげだった。

けれど僕は、行かなければならない。

ここで逃げて、後で後悔するのなら、

何かできることを見つけて、

誰かを助けた方がいい。

その方がよほど立派ではないか。

脳内にそう問いかけたが、

先程の声は聞こえなくなった。

僕がもたもたとしている間に

かなり近くまで来たようだった。

まさかの聞こえたのは森の奥。

木陰から覗いてみると、1人の男と、

動物の耳が生えた1人の青年が

腹から出血して横たわっていた。

さっきの銃声で殺されてしまったのだろうか。

そんな呑気なことを考えられるあたり、

僕は相当頭が狂っているのだろう。

いつもはちゃんと考えて行動するくせに

今は何故か倒れている子を助けなければ、

そう本能が伝えていた。

運動なんて出来ない、

速く走ることなんてできないくせに

こういう時はすぐに行動してしまう。

右足で何かを思いっきり踏み潰すように、

エンジンをかけて走る。

ただそれだけを考えて

他のことなんて頭に入らないくらい。

結果なんて分かりきっている。

殺されることなんて

目に見えているんだ。

けれど僕の本能は止めることを知らず、

倒れている青年を抱き抱えて、

ひたすらに走った。

ここで死んでしまってもいい。

人を守って死ぬなんて、ヒーローみたいでかっこいいだろう?

これなら、死んでも文句なんてないだろ?

誰に話しかけているのかも分からないが、

ただ、それだけをかんがえていた。