「ん、ぅ…」

目覚めたのはお昼に近い時間。

隣の部屋から怒鳴り声が聞こえたからだ。

何があったのだろうか。

むくりと起き上がって部屋から出る。

ガチャ、というドアノブが開く音で気づいたのか
レウがこちらを振り向き叫んだ。

「出てきちゃダメ!!」

僕はその言葉の意味が理解できず、
取り敢えず中に戻ろうと思った。

しかしそれは叶わなかった。

まず初めに来たのは背中の激痛。

視界がぐらりと暗転して天井が見えた。

今度は肩に痛みがきた。

痛みに目を瞑る。

遠くで彼の叫ぶ声が聞こえる。

痛みに耐えながら僕は目を開く。

目の前にいたのは黒髪の狼。

この人もまた獣人なのであろう。

肩に爪を立て服に血が滲んできた。

暫く頭が働かなかったが、
やっと状況が理解できた。

僕は押し倒されており、
その犯人は今僕の上に乗っている狼の獣人。

そしてきっと怒鳴っていたのはこの狼なのだろう。

原因は僕、人間をなんで入れている、とかそういう理由なんだろう。

瞳孔が開いている。

息が荒い。

きっと怒りが頂点に達しそうなんだろう。

まるで僕を喰い殺す勢いだ。

黄金に光るその瞳は逃がさない、
とでも言っているようだった。

「やめてリオン兄さん!!」

ずっと聞こえるレウの声。

静止に入ってはいるが鹿と狼の差。

力が全く足りていない。

リオン、と呼ばれる狼の彼は
一向に動こうとしない。

爪がどんどん肩に食い込んでいく。

やめて、なんて言えるわけもなく。

僕はただただ痛みを我慢するだけだった。