やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

「おはよう、今日も寒いな」

 私は立ち止まって軽く頭を下げる。

「おはようございます。そうですね、寒いですね」

 小さな緊張が喉を渇かせた。

「あの、部長」
「うん?」

 傍まで寄った三浦部長を上目遣いに眺めた。

 彼は切れ長の目をこちらに向けている。鋭い視線が痛くて逃げ出したい衝動にかられた。彼のことが好き、彼の傍にいたい。それなのに逃げ出したいなんて矛盾している。でもこればっかりは自分でもどうしようもないのだから仕方ない。

 何とか踏み留まって言葉を絞り出した。

「お弁当を作ってきました」
「そ、そうか」

 短く返して彼は目を逸らす。