やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 数秒の途切れた時間にそっと穏やかなクラシックの音楽が隙間を埋めていく。ピアノの音色がどことなくちぐはぐな男女の恋愛を想起させた。

 やがて、新村くんが口を開いた。

「俺は大野さんがいい」
「……!」

 思わず顔を上げた。

 真剣な眼差しで新村くんが私を見つめている。カチャリと音を鳴らして彼はナイフとフォークを置いた。それがクラシックの曲の一節のように聞こえてくる。

「大野さんが嫌だと言うなら関係は全て精算するよ。大野さんだけがいてくれればそれでいい。だから、俺と付き合ってくれない?」
「……新村くん」
「俺には大野さんが必要なんだ」

 静かに、それでいて力強い告白に私はまた一つ心音を跳ねさせる。三浦部長からの告白ではないのにそんな反応をする自分が信じられなかった。