やっぱり彼女は溺愛されていることを知らない

 どこで入手したのか一時期うちの会社の女子社員の中で彼の水着姿の写真が出回ったことがある。私も拝見させてもらったので彼の水着姿はしっかりと記憶に刻まれていた。

 その唇で何人の女性を虜にしたのか、形の良い彼の唇が動く。

「大野さんもここをよく利用するの?」
「わ、私はたまたまで」

 不意打ちのショックが尾を引いていて舌がもつれる。値引きシールがついたお肉を買おうとしていたのが急に恥ずかしくなって頬が熱くなった。

「に、新村くんもここで買い物?」
「うん」

 即答される。

 会社の社内環境部人事課に勤める新村健一(にいむら・けんいち)くんは私と同期入射の二十九歳。所属する部署は異なるが社内でよく会う人だった。